

腹膜透析とは
腹膜透析(peritoneal dialysis:PDと略されています)は1960年前後の朝鮮戦争のときに開発された最も古い透析方法です。おなかの中には小腸や大腸が曲がりくねって収まっていますが、これらの腸管をくるんで束ねている透明の薄い膜を腸管膜といいます。この腸管膜の中には毛細血管が網の目のように張り巡らされています。腹腔にホースのような管を入れて透析液を入れるとこの腹膜がちょうど血液透析の透析膜の役をして、毛細血管を通る血液との間に物質や水の交換が起こります。したがって血液中の毒素や過剰なイオンは腹腔に入れた透析液中に流れ出すわけです。
だいたい4〜6時間ぐらい透析液を腹腔内に貯留しておけば十分に毒素が出ていくので、汚れた透析液を体の外に入れたのと同じ管からサイホンの原理でくみ出します。そして再び新鮮な透析液を入れて再び6時間程度置くのです。この操作を通常4回程度行います。この時に出てきた液は、元々は無菌の混じり気のない透析液ですが、見かけは尿そっくりの薄黄色で尿の匂いもします。
腹膜透析の準備
透析を始める基準は血液透析と同じです。準備ですが血管アクセスではなく、腹腔内にカテーテルを挿入します。この場合は挿入してすぐに透析を始めることも可能ですが、通常はSMAP法と言って、始める1ヶ月ぐらい前にカテーテルを挿入して出口を皮下にしまっておき、使うときに出口部を外に出すという方法が薦められます。より刺入部が固定され出口部の感染に強くなるからです。
CAPD と APDの方法
CAPD(持続携帯式腹膜透析): 成人では1回に1.5〜2Lの透析液を腹腔内に貯留して、これを1日4回(朝、昼、夕方、寝る前)患者本人か介助者が新鮮な液の入った液と交換します。1回のバック交換に30分程度かかります。除水の効率はAPDに比べて大きいことが多いです。
APD:1日1回 夜間就寝中に自動腹膜透析装置(レンタル)を使って4回程度透析液を新しいものと交換します。除水の効率はCAPDに比べて小さいことが多いです。昼間は透析液を貯留しないで始めますが、除水量が足りなくなった場合位は、長時間に亘って除水できるタイプの液を貯留することができます。
腹膜透析の利点
- なんと言っても透析センターに通わず自宅でできることです。仕事や日常生活に支障をきたしませんし旅行も自由です。また寝たきりの場合などに看護士のいる療養施設で行えることもあります。
- 透析開始時にはまだ数パーセントは腎臓の働きが残っていて、水だけではありますが尿が出ています。血液透析では1年以内にほとんどの患者が尿量が減ってしまいます。それがPDでは減らずに残った腎機能が保たれることが多いです。
- 毎回血管い針を刺して痛い思いをしなくて済みます。血管アクセスが作れない患者でも透析ができます。
- 血液透析では透析中や終了後に血圧が下がって失神したり倦怠感など不快になることがあります。こうした症状はPDではありません。心臓への負担も回避できます。
- 食事ではカリウムの制限がなく、水分制限も血液透析ほどではありません。
腹膜透析の欠点と危険性
- 透析液を溜めた時にお腹が張ったり、カテーテルの先がちょうど肛門の裏あたりに置かれているのでそれが痛くなることが最初に多いです。
- お腹の中でカテーテル位置がずれたり、腹膜炎を起こしたりすると十分な廃液が得られなくなります。
- 透析液を交換する際にマニュアル通り行わなかったり、出口部を不潔にすると細菌が腹腔内に侵入して腹膜炎を起こします。
- 利点でもありますが、自分か介助者が操作を全てしなければなりません。認知症があったり体に障害があると介助者がいないとできません。
- 通常5年以上PDを行なっていると腹膜機能が衰えて十分な透析ができなくなることが多いようです。ただ海外では10年以上行っているのはザラです。
- 一番怖い副作用は硬化性腹膜炎と言って腹膜が固まって腸閉塞を起こしてしまうことです。ただ2000年ぐらいまででは特に日本でこの副作用が多かったのですが、透析液を中性にしたことで劇的に少なくなっています。
- 血液透析を行える病院は多いのですが、PDを行える病院が限られています。このため主治医がこれを患者に薦めないことが多いようです。
板橋中央総合病院腎臓病センターではPDも積極的に行っています!
執筆:塚本雄介 2022.2.1