多発性嚢胞腎

文責:板橋中央総合病院腎臓内科 塚本雄介(腎臓ネット代表)

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1.多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)とは?

多発性嚢胞腎という病気は、両方の腎臓に「のう胞」という水分を溜めた袋が沢山できることによって腎臓が大きくなり、その結果腎機能が低下していく病気です。世界で1,250万人程度の人がこの病気をわずらっています。この病気になると50%程度の人は60歳までに腎機能がなくなって透析や腎移植が必要になります。もちろん一生のうちに透析にならない人も相当数います。

この病気の特徴は

第一に、常染色体優性遺伝(じょうせんしょくたいゆうせいいでん)と言って、親の片方がその異常な遺伝子を持っていれば、性別に関わらず子供に50%の確率(2人に1人)で病気の遺伝子が遺伝します。このため、正式名称は常染色体優性多発性嚢胞腎となり、英語表記でADPKD(Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease)と言うのが世界で通用します。

第二に、症状は腎臓だけでなく多くの臓器に現れることです。特に肝臓、胆管、膵臓、脾臓、卵巣に腎臓と同様ののう胞が出現することがあります。また大腸には憩室と言って袋状の凹みが多く生じることがあります。これが動脈に起きると動脈瘤(どうみゃくりゅう)というコブができます。高血圧(80%の患者に起きる)も大変一般的です。ただし、腎臓には必ずのう胞ができるのがこの病気の特徴ですが、腎臓以外に異常が出るか、また出たとしてもそれが病気として問題になるかは人によって異なります。

2.常染色体優性多発性嚢胞腎ではない、腎のう胞があります

多発性嚢胞腎では左右両方の腎臓に大小不同ののう胞が多数できるのが特徴です。これと間違えてはいけないものに、加齢とともに生じる単純性腎のう胞というものがあります。この場合は、一つの腎臓に5個以下であることがほとんどで、特に治療は不要な無害なものです。また長い間透析を受けている人の腎臓にものう胞が沢山できることがありますが、この場合の腎臓は小さくなっていくので違いは明白です。

小児の場合は、多発性嚢胞腎とは別の遺伝性にのう胞を作る病気が稀ですがあり、それらとの区別が必要です。

3.多発性のう胞腎による腎臓の障害について

腎臓ののう胞は年齢とともに大きさと数を増やしていきます。そして、ある程度増えるとその段階で腎臓の働きが低下し始めます。普通腎臓の大きさは上下に長い方がせいぜい10から12cm程度ですが、のう胞腎では30cmまで大きくなるのも稀ではありません。

この腎臓の働きが落ち始めるのは人によってかなり差はありますが、平均的には30歳代から腎機能が低下し始め60歳代で透析や移植が必要になることが多いようです。このような人は全体の50%ぐらいで、腎機能の低下はあまりなく透析も70歳まで必要のない人もいます。

この腎機能低下の速度は異常な遺伝子の種類により異なります。のう胞腎の原因となる遺伝子にはPKD1とPKD2という2種類があります。この内、PKD1遺伝子異常を持った人はより病気の進行が早く、60歳では約半数の人が透析を必要とするのに対し、PKD2遺伝子異常では60歳までに透析になるのは20%程度です。

4.腎臓以外の症状について

腎臓以外でのう胞ができて健康に害を与える可能性があるのは肝のう胞、大腸憩室、脳動脈瘤です。

肝のう胞の程度は人によって異なり、あまり健康被害を起こさない人も多いのですが、のう胞の大きさが大きく数が増えて胃を圧迫したり、また肝臓の機能にも異常をきたす場合もあります。特に女性の方が肝のう胞が大きくなる傾向があり、女性ホルモンを含む薬も肝のう胞を悪くするようです。

大腸憩室はそれ自体では害はありませんが、感染を起こすと虫垂炎のような症状を起こします。

脳動脈瘤は破裂すればくも膜下出血や脳出血を起こします。ちなみに破裂する危険性があるのは全体の3%程度です。家族に同じような脳動脈瘤の破裂を起こした人がいると危険性は高いようなので定期的な検査が必要です。

5.多発性嚢胞腎の診断の基本は家族内に同じ病気がいることです

正確には常染色体優性多発性嚢胞腎と言います。ですから診断の基本は同じのう胞腎を持っている家族(両親、祖父母、兄弟など)がいることです(家族内発生)。ただ、この病気がよく知られるようになって30年くらいしか経っていないので、必ずしも診断が以前はつけられていないので、親の兄弟が透析をしていたとか、祖父が脳出血(くも膜下出血)で亡くなったとかいうことが参考になります。

こうした家族内発生が確認できた上で、超音波やCTまたはMRIによって5個以上の大小不同ののう胞が両方の腎臓に存在すると、まず診断に間違いはありません。そして肝臓にものう胞があればさらに診断はたしかになります。問題は家族内発生がわからない場合です。この場合は、類似した他の病気である可能性もあります。ただ腎臓以外にものう胞があれば診断は容易になります。

6.どんな遺伝子の異常か?

腎臓には尿細管(にょうさいかん)という糸球体(しきゅうたい)によって血液からろ過された尿を集めるとても細い管があります。この管の内側に繊毛(せんもう)という毛のような無数の突起物があり、これが尿の流れを感知して細胞の働きを調節しています。この線毛を作っているのがポリシスチンというタンパク質でそれを作る遺伝子がPKD1とPKD2です。この遺伝子に異常が起きると線毛がうまく作れなくなり、本来は細い管である尿細管が膨らんでのう胞を作るようになるのです。実はこの遺伝子は尿細管だけでなく、身体中の管にあるのです。ですから肝臓にのう胞を作ったり、動脈が膨らんで動脈瘤になるのです。

診断のための遺伝子検査は現在可能になっています。ただし、国内では研究目的以外で行うことはまずなく、その実施に関しては日本医学会のガイドラインで条件が決められています。病気がはっきりしている場合は遺伝子検査を行わなくても診断は難しくない点から行うことはありません。発病していない場合で血縁者に腎臓の提供を行う場合に遺伝子検査を行う場合もありますが、この場合は海外の機関に依頼しますG e n e T e s t ※http://www.genetests.org ) 。ただし、病気の遺伝子を持っていても遺伝子検査で異常が見つからない偽陰性があることも知っておく必要があります。何れにしても十分な受ける側の理解と同意が必要です。

7.どういう治療が必要か?

  1. 腎機能の低下を遅くできる治療法

    多発性嚢胞腎ののう胞の増大を抑えて、腎機能の低下を遅くすることができる新しい薬剤トルバプタン(製品名サムスカ)が2014年3月に日本で世界に先駆け厚労省に認められました。この薬剤は抗利尿ホルモン受容体阻害薬といって、体が脱水に傾いたときに脳から出される抗利尿ホルモン(バソプレッシンとかADHとも呼ぶ)の働きをブロックして尿量を増やす薬剤です。この薬剤は日本の大塚製薬の独自の開発で2010年からすでに心不全や肝硬変の治療に使われている薬剤です。そしてこの薬剤が実は腎のう胞の増大を抑えるということが証明され、日本を含む世界15か国で国際共同臨床試験が行われたのです。今年になって欧州、カナダでも承認されました。詳細は10章で。

  2. 腎のう胞が大きくなって臓器を圧迫するようになったら

    腎機能が低下し、末期腎不全になると中には腎のう胞がかなり大きくなり、外目でもお腹が妊婦のようにせり出してくる人がいます。このため胃腸系を圧迫し、栄養失調になってしまう人が中にはいます。この場合、すでに透析を始めていることが前提ですが、幾つかの治療があります。

    一つは腎動脈塞栓術です。のう胞を栄養している血管に詰め物をして血流を遮断して、いわばのう胞を兵糧攻めにする方法です。これは行うために造影剤を使用せざるをえない点、正常な腎臓の組織まで潰してしまう危険があるために、透析に入る前は行えません。

    二つ目は、以前から行われてきましたがのう胞に穴を開ける方法です。これは特に大きなのう胞が悪さをしている時や、のう胞に膿が溜まって抗生物質で治療しきれない場合などに行います。

  3. 高血圧を治療する

    高血圧の治療薬(降圧薬)にはその効果によって2大横綱ともいうべき薬の種類があります。一つはカルシウム拮抗薬という種類で心臓を守る働きが優れている薬、もう一つは腎臓に重要なレニンーアンギオテンシンーアルドステロン系(RAASラス系、と略します)阻害薬という血圧を下げる薬剤です。このため多発性嚢胞腎の場合も、他の慢性腎臓病(CKD)の原因となる病気と同様に、この後者のタイプの薬がまず第一に必要になります。この薬剤により血圧を下げることにより、高血圧による心臓病や脳卒中の予防にもつながるほか、若くてまだ腎機能が正常な段階で始めれば、その後の腎のう胞の拡大や腎機能の低下の抑制にもつながるという研究結果が発表されています。いずれのタイプにも何種類もの薬が現在は発売されていて、それぞれの特徴に合わせた選択をします。またこの2種類のタイプを同時に処方する必要があることも多いのです。以下の点に注意して血圧を正常に保ちましょう。

    1. 過度の血圧低下はふらつきや転倒の原因になるだけでなく腎機能を低下させるので、必ず主治医に相談してください。

    2. ラス系阻害薬に共通した危険な副作用は血液中のカリウム値が増加することです。これは腎機能が低下するとより起きやすくなります。このため定期的な採血を行い、カリウム値が6(単位はmEq/L)を決して超えないように注意が必要です。高くなるようなら果物や生野菜を制限する必要があります。

    3. 降圧薬全体に共通することですが、勝手にやめたり、適当に飲んだり飲まなかったりするのは、血圧が上下を繰り返しとても危険です。必ず指示通りに服用しましょう。高血圧はとても危険な病気です。

  4. 肝のう胞を治療する

    肝のう胞はそれ自体では通常は体に害はありません。ただし、その数が増えサイズも大きくなってくると肝臓全体が大きくなり、肝臓の周りの胃腸や肺を圧迫するようになります。中には腎臓ののう胞はそれほどでもなく腎機能の低下もあまりないのに、肝のう胞だけが巨大になり肝臓の働きが著しく低下する、すなわち肝不全の状態になる人がいるのも事実です。こうした巨大肝のう胞の治療法は現在外科的な治療法のみですが以下の方法があります。いずれも熟練した医師による施術が必須です。

    1. 肝臓移植

      肝不全になってしまった場合の治療は肝臓移植しかありません。

    2. 肝動脈塞栓術

      肝のう胞が巨大になって圧迫のための症状が出た場合は、肝動脈を詰めてしまう塞栓術がおこなわれており、現在その効果を検証する医師主導臨床試験が行われています(詳しくは当ホームページのお知らせを)。この方法は通常、肝臓癌に用いる方法で、この場合は癌でなくのう胞の栄養を絶ってしまう方法です。血管からカテーテルを入れて行います。

    3. 肝のう胞開窓術

      これは取り立てて大きなのう胞が肝臓の上方(肺に接する方)にある場合におこなわれます。以前は、一つのう胞を潰してもすぐに他ののう胞が大きくなるために徒労に終わると考えられていましたが、最近は大きなのう胞が隣ののう胞を刺激してさらに大きくしてしまうことがわかってきたので、圧迫症状を抑えるだけでなく、のう胞の巨大化を抑制する方法としても有効と考えられるようになりました。お腹を大きく開くことなく腹腔鏡を用いて行うことができます。

  5. 慢性腎臓病(CKD)として共通の治療

    多発性嚢胞腎も腎機能(eGFR値)が低下していくと、他の慢性糸球体腎炎や糖尿病による慢性腎臓病と同じように、種々の異常が出やすくなります。そのeGFR値に応じて、重症度がステージで6段階(ステージG1, G2, G3a, G3b, G4, G5)で表されます。通常はステージG3b以降になると特別な食事療法や貧血の治療、骨を守る治療などが必要になり、ステージG5になると透析や腎移植の準備をしなければなりません。自分がどのステージにあるかは当ホームページで計算ができます。その計算のためには血清クレアチニン値と性別、年齢が必要です。

8.生活上注意すべきこと

  1. 食事

    慢性腎臓病の原因となる他の病気と同じように、塩分1日6g以下を目指して制限することが大事です。またたんぱく質はとりすぎず、腎機能がeGFRで30ml/分/1.73m2以下(CKDステージG4に該当します)になるようなら標準体重(理想体重)あたり0.8g程度に制限をします(例:標準体重50Kgなら1日40g)。ただしカロリー不足に陥らないような工夫が必要です。また腎機能が正常なうちはクエン酸に富んだ食物(柑橘類など)がのう胞を大きくしない効果があることが動物実験では示されています。また飲水を十分に行って尿を濃くしないことが大事です。飲水は季節によって異なりますが、2.5L〜4Lが学会で勧められています。

  2. 運動

    特にこの病気で推奨される運動はありませんが、慢性腎臓病全般で筋肉運動や有酸素運動(水泳、ジョギング、など)が勧められています。ただし、肉眼的血尿を避ける為、ボクシングやラグビーなどの腹部外傷が起こり得るスポーツは避けた方が良いでしょう。

  3. 避けるべきこと

    カフェインはのう胞を大きくしてしまう作用が確認されているので注意をした方が良いでしょう。慢性腎臓病に共通した注意事項として、鎮痛薬や造影剤をはじめとして多くの薬は腎臓に悪い働きをすることがあるので、もし医師から処方される場合は必ず病名を伝えて確認した方が良いと思います。

9.子供にいつ、どのように伝えたら良いだろう

  1. これには定式はありません。ただし、いずれの場合もお子さん自身の問題です。「ADPKD では小児ならびに若年者での画像を含めた診断基準が確立されていない.有効な治療方法が確立されていない現時点では,ADPKD 患者の子であっても発症していない場合には,小児期ならびに若年期での画像診断によるスクリーニング検査は推奨しない」と2014年の日本のガイドラインでは記述されています。

10.妊娠出産は?

  1. この病気であっても血圧が薬無しで正常で、腎機能が低下していなければ妊娠出産に問題はありません。もし腎機能が低下してくれば他の慢性腎臓病と同様に妊娠出産にリスクが増加することになります。

  2. 避妊や生理不順に用いる女性ホルモン製剤は肝臓ののう胞を悪化させる危険があることがわかっています。また高血圧に最も使われるラス系阻害薬と言われる薬のグループには奇形児の原因になる場合があり、妊娠は計画的に行う必要があります。

11.トルバプタンを服用するには

  1. 服用を開始する時には同意書へのサインと入院が必要です

    トルバプタン(製品名サムスカ)を多発性嚢胞腎の治療が目的で服用するためには、この薬による効果(尿が通常3L以上出るなど)や可能性のある副作用等を十分に理解していただき同意書にサインをする必要があります。これは薬を安全に服用していただくために大事なことです。このことから、1泊以上入院していただいて、この薬の理解とどのくらい尿が出るのか、どのくらい飲水が必要になるのかをよく理解していただかなければなりません。

  2. 副作用

    1. 尿回数が増える

      まずはこの薬の本来の働きでもありますが、尿がたくさん出ることです。夜間も頻回に尿意をもよおす場合もあります。このことによる日常生活の支障や不眠が問題になります。ただし、次第に回数は減って慣れていきます。

    2. 喉が乾く

      この薬によって増える尿の成分のほとんどは水です。このため適切に水分を補給しないと血液が濃縮されて喉が渇きます。喉が乾く前に計画的に水分を補給することが副作用の予防だけでなく効果の面でも大事で、これを怠ると血液中のナトリウム濃度が異常に増加して、ひどいと意識がなくなったり、痙攣を起こすなどの危険な状態になります。

    3. 肝臓機能の異常

      トルバプタンは治験時に重篤な肝障害が報告されています。このため、月1回は肝機能を測定して、肝機能に異常があれば服薬を止める必要があります。日本人で治験に参加した118名中12名(10.2%)に起きており、いずれも服薬を止めることで治っていますが、検査せず放置すると危険です。

  3. 服用の仕方

    朝と夕に服用します。最初に45mgと15mgで開始し、通常90mgと30mgまで次第に増やしていきます。こうすることで薬の作用になれるのと副作用を未然に察知します。

  4. 費用

    平成26年法律第50号「難病の患者に対する医療等に関する法律」が制定・施行され、多発性のう胞腎がそれに基づき医療費助成が受けられる指定難病に加わりました。このおかげで最も所得が多い人でも月3万円の負担でこの治療が受けられるようになりました。この助成を受けるには難病指定医による診断書と自治体への申請が必要です詳しくは当HPの「難病法」にアクセス

12.未来の話

この病気を起こす遺伝子の異常とのう胞が増えるメカニズムがわかってきています。その一環としてトルバプタンがのう胞の増大を遅くするということがわかりました。そしてまだまだ病気のメカニズムが他にあり、それらを治療できる複数の薬剤に対してすでに世界では臨床治験を開始しています。効果はあっても副作用がそれを相殺しては意味がありません。十分安全性が見合う薬剤が登場すればもっと確実にのう胞の発生を防ぐことが可能になるという希望があります。日本では現時点で新しい薬剤の開発は開始されていませんが、海外では幾つかの治験が行われており、現在かなり希望が持てるのがソマトスタチンと言われています(2015年12月現在)