慢性腎臓病の治療
CKDステージ(重症度)による治療のまとめ
CKDステージ分類 (腎臓の機能別) | 受診 | 食事 | 薬の副作用 | 必要になる治療 |
---|---|---|---|---|
GFR45以上 (ステージG1,2,3a) | 腎臓内科で一度は腎臓病の原因を調べ、その原因の積極的な治療が行えるか判断する。腎生検をする好機。 | 1. 減塩食(1日3g〜6g) 2. タンパク源は植物性を増やす。 | なし | 禁煙、原因の治療、CKDの共通な治療(アンギオテンシン受容体拮抗薬やSGLT2阻害薬) |
GFR45未満 (ステージG3b) | 腎機能が低下している原因を調べ、治療を見直す。場合によっては腎生検を行う。 | 1. 減塩食(1日3g〜6g) 2. タンパク質は0.8〜1.0g/Kg体重/日 3. カロリーは保って適正体重を維持する。 | 造影剤、抗菌薬、鎮痛薬、ビタミンDなどで副作用が現れやすくなる。 | 禁煙、原因の治療、CKDの共通な治療(アンギオテンシン受容体拮抗薬やSGLT2阻害薬)、Kを下げる治療 |
GFR30未満 (ステージG4) | 1. 腎臓内科で診療を受ける。 2. 栄養士に食事指導を受ける。 3. 看護士に透析や移植の話を聴く。 | 1. 減塩食(1日3g〜6g) 2. タンパク質は0.6〜0.8g/Kg体重/日 3. K値が5.0以上なら、生野菜、果物を減らすか、Kを下げる薬を服用。 4. カロリーは保って適正体重を維持する。 | 副作用が現れる薬の種類が増える。 | 1. 禁煙 2. 原因の治療 3. CKDの共通な治療(アンギオテンシン受容体拮抗薬やSGLT2阻害薬) 4. 症状による治療(利尿薬、Kを下げる治療、貧血の治療) |
GFR15未満 (ステージ5) | 1. 腎臓内科で診療を受ける。 2. 栄養士に食事指導を受ける。 3. 透析や腎臓移植を受けるための準備を行う。高齢の場合にはそれらを行わず 4. 腎臓移植を行う。 5. 身体障害者3級を申請(クレアチニン値5mg/dl以上必要) | 1. 減塩食(1日3g〜6g) 2. タンパク質は0.6〜0.8g/Kg体重/日 3. K値が5.0以上なら、生野菜、果物を減らすか、Kを下げる薬を服用。 4. カロリーは保って適正体重を維持する。 | 使ってはいけない薬が増える。 | 1. 禁煙 2. 原因の治療 3. CKDの共通な治療(アンギオテンシン受容体拮抗薬) 4. 症状による治療(利尿薬、Kを下げる治療、貧血の治療、ビタミンD、リンを下げる) |
GFR6未満 (腎不全) | 1. できれば症状が出る前に透析を始める(心不全やむくみが治らず、吐き気や食欲低下、倦怠感が増えるなど尿毒症の症状が出れば、その前のステージでも透析を始める)。 2. 身体障害者1級を申請(クレアチニン値8mg/dl以上必要) | 1. 減塩食(1日3g〜6g) 2. 透析を始めたらタンパク質は制限しない。 3. K値が5.0以上なら、生野菜、果物を減らすか、Kを下げる薬を服用。 4. カロリーは保って適正体重を維持する。 | 使ってはいけない薬が増える。 | 1. 禁煙 2. CKDの共通な治療(アンギオテンシン受容体拮抗薬) 3. 症状による治療(利尿薬、Kを下げる治療、貧血の治療、ビタミンD、リンを下げる) |
慢性腎臓病に使われる薬
薬の副作用の考え方
どんな薬にも副作用の危険性はあります。その薬が効く可能性が副作用の危険を大きく上回る時だけ薬が使われます。ただし、悪性腫瘍や免疫の異常など生命の危険が大きい場合には、救命には副作用の危険をおしても使わなければならないことはあります。大事なのは副作用を医師が予想して十分な予防策を講じることです。また受ける患者自身もその可能性をよく知って、何らかの異常があったらすぐに医師に知らせることです。
1. 慢性腎臓病の進行を遅くする薬
薬の種類 (一般名) | 主な効果 | 注意する副作用 |
---|---|---|
アンギオテンシン受容体拮抗薬という高血圧治療薬(ARB: ロサルタン、カンデサルタン、オルメサルタン、アジルサルタン、バルサルタン、他) | 1. 血圧降下 2. 糸球体のストレスを除去してタンパク尿を減少させ、じん機能低下にブレーキをかけるエビデンスがあるのでほとんどの慢性腎臓病に適応がある。 | 1. 血液中カリウム値の増加 2. 血圧が下がりすぎるとじん機能が悪化する |
アンギオテンシン変換酵素阻害薬という高血圧治療薬(エナラプリル、イミダプリル、アラセプリル、カプトプリル、他) | 1. 血圧降下 2. 糸球体のストレスを除去してタンパク尿を減少させ、腎機能低下にブレーキ | 1. 血液中カリウム値の増加 2. 血圧が下がりすぎるとじん機能が悪化する 3. 空咳(日本人の50%) |
SGLT2阻害薬という糖尿病治療薬(イプラグリフロジン、タパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン) | 新しい糖尿病の治療薬で、血糖コントロールだけでなくじん機能低下の速度を抑制できるエビデンスがある。糖尿病以外の慢性腎臓病にも効果が認められるが、糖尿病でない場合はタパグリフロジンにのみ保険適応が認められている(23年3月現在)。eGFRが15 mL/分以上で効果が認められる。 | 1. 女性で膀胱炎や膣の細菌感染症が多い。 2. 利尿作用もあり脱水になりやすいのでしっかり水分補給する。 |
非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(フィネレノン) | 新しく開発された薬剤。血圧を下げない容量で糖尿病による慢性腎臓病の進行を前出のARBとの併用で抑えられる、というエビデンスが最近得られた。高血圧のない方に特に有効か? | 1. 血液中カリウム値の増加 2. 血圧が下がりすぎるとじん機能が悪化する |
2. むくみや心不全を改善する薬
薬の種類 (一般名) | 主な効果 | 注意する副作用 |
---|---|---|
カリウムを下げる利尿薬(フロセミド、ルプラック、トラセミド、アゼトラミド) | 尿量を増やし浮腫や心不全を改善する。フロセミドが最も強力。 | 1. 脱水、血液中のナトリウムやカリウムが失われる。 2. 高容量のフロセミドで難聴の危険性。 |
カリウムを上げる利尿薬(スピロノラクトン、エプレレノン、エサキセレノン) | 利尿作用及び血圧降下作用。低カリウム血症を予防。心不全を改善する。 | 血液中カリウム値の増加、特にじん機能が低下していると危険。 |
水だけ排泄できるバソプレッシン拮抗薬(トルバプタン)と言う新しい利尿薬 | 1. 利尿作用が強く、血液中のナトリウムが低下している場合や心不全に特に効果的。強力! 2. 多発性のう胞腎ののう胞増大を抑制して腎機能を保持する。 | 1. 脱水と血液中のナトリウム値の上昇。口渇に応じてしっかりと飲水ができることが必須。 2. 肝機能障害 |
3. 異常な免疫を抑える難病の薬
薬の種類 (一般名) | 主な効果 | 注意する副作用 |
---|---|---|
ステロイド(プレドニン、メチルプレドニゾロン、デキサメサゾン、他) | 新型コロナの治療にも用いられる最も安全な免疫抑制薬で強い炎症を抑える働きがある。IgA腎症をはじめとして血管炎で起きる急速進行性糸球体腎炎や膠原病の基本的な治療法。高容量のメチルプレドニゾロンを点滴で3日間行うのをパルス療法と言う。 | 1. 普段かからない感染症(サイトメガロウイルス、カリニ肺炎、カビ、他) 2. 胃潰瘍 3. 骨粗しょう症 4. 糖尿病 5. 顔が丸くなる、ニキビ 6. 精神症状 |
その他の免疫を抑える薬(シクロホスファミド、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、シクロスポリン、タクロリムス、リツキシマブ、他) | ステロイドだけでは治療できない血管炎や膠原病による急速進行性糸球体腎炎に併用される。腎移植の拒絶反応を防ぐ。副作用の予防が必須。高度な専門性が必要。 | 1. 普段かからない感染症(サイトメガロウイルス、カリニ肺炎、カビ、他) 2. 不妊(MMF) 3. 骨髄抑制(シクロホスファミド、リツキシマブ) 4. 出血性膀胱炎(シクロホスファミド) 5. クレアチニン値増加(シクロスポリン、タクロリムス) |
血漿交換療法 | 血液から血球成分を除いた液体の部分を血漿と言い、この成分を患者の血液から分離して新鮮な血漿やアルブミン溶液と入れ替える。異常な自分を攻撃する抗体を除去することができ、種々の難病の重要な治療法。 | 血液透析と同じ体外循環なので、血圧が低下したり、行うために必要なカテーテルの挿入に伴う事故の予防が重要。 |
4. 成人病を治療して慢性腎臓病の進行を遅くする薬
薬の種類 (一般名) | 主な効果 | 注意する副作用 |
---|---|---|
カリウムを下げる薬(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム ) | 血液中のカリウムを低下させる新しい薬。腎機能が低下して血液のカリウムが上がりすぎる場合にこれを服用すると、多くの患者では食事中のK制限をしなくて済むようになり野菜や果物を食べれるようになる。 | 以前のカリウムを下げる薬は便秘と効果が問題だったが、この薬はそれを解決している。容量を調節しないとカリウムが下がりすぎることがある。最大の欠点は薬価が高いこと。 |
尿酸を下げる薬(フェブキソスタット、トピロキソスタット) | 尿酸値を下げる。じん機能が低下したり利尿薬で尿酸値が上がるとこれで治療する。痛風や動脈硬化を予防するが、腎機能を保持できるかは不明。これらの 2剤は比較的新しい薬で慢性腎臓病に使いやすいタイプ。 | 1. 肝機能障害 2. 骨髄抑制(先行品のアロプリノールで見られる副作用だが、これら 2剤ではその副作用がほとんど見られない) |
コレステロールを下げる薬(プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン) | LDLコレステロールという悪玉を下げる薬。動脈硬化の進行を止める働きがあるが、直接腎機能を保持できるかは不明。 | 横紋筋融解症と言って筋肉を壊すことがあり、そうするとさらに腎臓にダメージを与える。熱中症に気をつけ水分補給を絶やさないのが大事。 |
5. 腎臓が悪いために起きる貧血を治療する薬
薬の種類 (一般名) | 主な効果 | 注意する副作用 |
---|---|---|
エリスロポエチン注射薬(ダルベポエチン、エポエチンベータぺゴル、エポエチンα/β) | 慢性腎臓病が原因の貧血の治療薬。この注射薬が1990年に発売されて透析患者は輸血をしなくて済むようになった。 | 1. 血圧上昇 2. 脳梗塞、心筋梗塞(ヘモグロビンが上がりすぎると) 3. 悪性腫瘍の進行を促進の危険性 |
経口エリスロポエチン産生促進薬(HIF-PHD阻害薬:ロキサデュスタット、バダデュスタット、ダプロデュスタット、エナロデュスタット) | 新しい慢性腎臓病が原因の貧血の治療薬。これはエリスロポエチンそのものではなく、その産生を増加させる新しいタイプの薬。鉄の消化吸収と利用を改善する効果も期待される。 | 1. 血圧上昇 2. 脳梗塞、心筋梗塞(ヘモグロビンが上がりすぎると) 3. 糖尿病性網膜症・加齢黄斑変性症や悪性腫瘍の成長を進める危険性(作用から)。 4. 肺高血圧症の悪化 5. 多発性のう胞腎ののう胞の拡大 |
6. 腎臓が悪いために起きる骨折や血管が石灰化するのを防ぐ薬
薬の種類 (一般名) | 主な効果 | 注意する副作用 |
---|---|---|
活性型ビタミンD(カルシトリオール、アルファカルシドール、他) | 紫外線を浴びて作られたビタミンDは腎臓で活性化されて初めて骨を作ることができる。腎臓の働きが低下するとこの働きが弱くなるので、血液中のカルシウムが低下して骨を壊す副甲状腺ホルモン(PTH)がたくさん作られてします。 | 薬の量が多すぎるとカルシウム値が上がりすぎて、腎機能が悪くなり大変危険。脱水になると特に起きやすい。定期的な血液検査が必要。 |
リンを下げる薬(クエン酸第2鉄、炭酸ランタン、他) | 腎臓の働きが低下すると血液にリンが溜まってしまい、血管にカルシウムと一緒に蓄積し、石灰化を起こして硬くしてしまう。これを予防する。 | 下痢や便秘などの消化器症状が多い。 |
副甲状腺ホルモン(PTH)を下げる薬(エボカルセト、シナカルセト) | PTHが上がりすぎると骨が脆くなるのでこれを防ぐ。 | 使いすぎるとカルシウム値が低下して、手足が攣ったり心電図の異常を起こす。定期的な血液検査が必要。 |
執筆:塚本雄介 2022.2.1